5：00，6：00
5：00AM 冬の朝にはまだ陽も昇らず
ただぼんやりと闇に潜み 天井を見上げてる
6：00AM ベッドの隣の寝息がやかましい
首を絞めて黙らせてやりたくなる
誰か助けて
頭の中はたった一つのメロディーとフレーズが
永遠の循環運動を繰り返す
ここはどこだ
見たような聞いた事あるような新聞の一面記事を読む
「その気になって一発当てれば俺だってまんざら捨てたもんじゃないんだぜ」
「あっ、そう」
誰か助けて
ちょいとばかり口が軽くなりすぎだ
喋り過ぎる程に何でか饒舌になっている
しょうがないのか
何だ、こいつの鼓動
いつも同じリズムで ボレロじゃあるまいし もう止めろ
5：00PM これで何度目の夕陽を見ている
そうやって格好つけすぎるから みんな行っちまうんだよ
6：00PM これで何人目が消えた
あと何人で俺はマシに生きられる
心を冷ましてもっとよく考えてみれば とっくに分かっていたはずだ
もう うんざりだ
7：00，8：00
こんな川から心はいつもどこかへ自由を求めて流れてゆくけど
そんなに上等な生き方なんてありはしないと いつも冷めて笑う俺がここにいる
小さい頃に夢みていたのは何だったんだろうと
思い出そうとしてみても思い出せやしないくせに
ちょっとナイーブな振りをしてみせる事で気を引こうとしている自分が嫌だ
とんでもない事を思いついたなんて 言う事だけは一人前のやり方を覚えても
ただ一人さえきちんと愛せやしないんだから
まだ10％にも満たない
小賢しい言葉とロジックをこねまわし偉そうな表現に長けてみたところで
底が浅いのを隠す為の手段だって事が見え透いている自分が嫌だ
この川を下れば見つかるという自由に憧れは募るばかりで
言い知れぬ自立というやつを手に入れたいと望む気持ちばかりが空回り続け
いつの間にか小さく狭くなってしまった街並みを眺めていると落ち着かなくなって
見た事も無い幸せを さもありがちに唱えてみせるばかり
あんた どこに行ったんだい
いつか尋ねてみた真実なんて どうでもよくなってるのかい
あんた 今でもやっているのかい
別に答えなんて求めちゃいないけれど
汚れた天使はどこにいる
9：00，10：00
長い夢を長い沈黙の中で見ていた
ずっと昔から何も変わってやしないけど
何もかもが変わってしまっても
それでも
君の心はまだそこにいる
うずくまって
かしこまって
時計の針がもう一度巡り巡り戻ってくるのを待ち続けて
あの頃
いつ見ても眩しかった
そして何もできずに終わってしまった
何も為さずに終わってしまった
目を閉じて
光はどこかに置き忘れたままで
それでも君は明けがたの戸惑いを抱きしめたままで
夕暮れが時たま雄弁に全てを語りだすから
もう
あなたの為なら何だってできるよ
何だってしてあげられるよと
君の耳元で囁いてやりたい
望まれるなら
時計の針が音を立てる
きっちり
かっちり
残酷に刻み続ける
この悪戯に はやるものは何だろう
見覚えのある電話番号を押す
この指はまだ記憶していた事に奇妙に心地好さを感じて
嘘つきな科白を並べるつもりはないのに
僕たちはいつも
欲しいものを欲しいと言い
愛しいものを愛しく想い
手に入れた優しさを大切にしたいと思うから
今はただ
そこに座り込んだままの君のあの心を思い出す
そして僕は
まだ本当の恋を知らないでいる
11：00，12：00
行かないでと言うのは本当は誰だって嫌
本当の自分をさらけ出す勇気を持てない
こんなに弱気な自分を嫌いながらそれでも憎み切れない
やるせないね
それでも一人は嫌だもの
あてどなく寄せ来る侘しさに慣れるわけも無い
情けなさを否定しながら同時に許してもいる
自己憐憫の穴
何でなんだろう どうしてなんだろう
誰か僕を愛してくれない
放っておいてと言うのは本当はみんな怖い
誰か助けて
それでいいと投げやりな諦め顔が得意
尖りきれない角を忘れたふり
みじめな魂を見ないふり
それでも気がついてしまう
がんじがらめだ
ほどけやしないんだ
言葉を弄して
抜け道だらけの毎日を過ごすか
それでいいのか
放っておいてと言うのは本当にみんな怖いんだから
誰か助けて
1：00，2：00
裸眼じゃ見えない世界で歌い続ける僕はとんだ道化
聞いた事無いような儚いけだるさも
気がつけばドライバーでこじ開けられてるんだ
スケスケのスーツを着たサラリーマン
ラッシュアワーで溺れるかよわき子羊よ
走査線だらけの巨大モニターの中
時計の針が今にもぶっ飛びそうだ
気の無い顔を最後に見せてくたばったドン・ファンが
裸眼で覗いた万華鏡の中
舵を切り損ねてクラッシュしているようじゃどうしようもない
洒落にもできないプライドでメシ喰ってんだ
本気で邪魔くさい石ころみたいなもんだ
シースルーで愛を語れないデラシネ達
僕らは貧弱なボキャブリーで指切りしたんだ
いつから変わるのかな
フロリダから打ち上げられるピカピカのロケットに乗って
殺されそうな この常識なりの青さを宇宙から再確認しているんだ
3：00，4：00
哀しくて泣いた
悔しくて泣いた
嬉しくて泣いた
切なくて泣いた
寂しくて泣いた
苦しくて泣いた
やるせなくて泣いた
笑いたくて泣いた
壊したくて笑った
怒鳴られて笑った
届けたくて笑った
触れたくて笑った
愛したくて笑った
愛されて笑った
傷つけられて笑った
泣きたくて笑った
青空が妬ましい
誰も僕を見るなよ
歩き回る街も
駆け抜ける街も
遠ければ分からない
近すぎて分からない
信じられる言葉も
僕の寄るべき君も
誰か助けて
嘘をつくのはとても容易い 特に君に対しては
それをつきとおすのはとても難しい 特に君に対しては
だから本当の事を伝えてみたい 特に君に対しては
けれど嫌われそうでとてもできない 特に君に対しては
愛しているよと打ち明けたい 特に君に対しては
いつも扉の手前で引き返す 特に君に対しては
いつからさらけ出すのを怖がり出した 特に君に対しては
そして強引に自分を納得させる 特に君に対しては
このままでは僕は過去に憑り殺されてしまう
いつか いつか と呪文のように繰り返しても
その日は決して来ないのに
記憶が僕をゆっくりと殺していく
記憶が君もゆっくりと殺していく
不自然な笑みで閉じた扉を見る 特に君に対しては
誰か助けて
