早起きな子供たち
早起きな子供たちは今日もやっぱり早起きで
早起きな街の中を早起きな仲間と一緒に駆け抜ける
まだ空気も眠っているままのような時間に
まだ世界が歩みを再開していないような時間に
彼らは街中を駆け抜ける
早起きをすれば誰もまだ見たことのないような新鮮な驚きに会えるのなら
僕だって早起きをしてもいいのだけれど
何だかそんな気分になれないでいるのは睡眠の愉悦を知ってしまったせい？
早起きを勧めるのはいつだってもう充足しきった者か充足という言葉も知らない者
だから反発しているわけでもないのだけれど
なんで反発しているわけでもないのだけれど
朝の栄光が世界を包んでいようとも夢の堕落にはかなわない
これは別に夜更かしや寝坊を正当化しようという意図ではないが
惰眠をむさぼるのは心地よい
それに夢の中でなら君に会えるかもしれないじゃないか
もう顔も知らない君だけど
目が覚めた後に何にも覚えていられない僕だけど
君に会うためだったらもう一日中だって寝ていられるだろう
後ろ向きなのは分かっているさ
今日もまた起きてしまったのは僕に意気地がないからかな
それとも意気地があるから起きてしまうのかも
早起きな子供たちは今日もやっぱり早起きで
早起きな街の中を早起きな仲間と一緒に駆け抜ける
僕は君の夢を見たくていつも一時間だけ長く寝てしまうのだ
ウタ
今日 彼の歌を聞いた
キリキリにとがった言葉が 優しくかすれた声に乗り
激しいうねりを伴いながら
俺の心臓を唐突なまでの乱暴さでわしづかみにした
彼の言葉に殴られた
彼の言葉に責められた
彼の言葉になじられた
彼の言葉になぐさめられた
彼の言葉に励まされた
彼の言葉に抱かれた
俺の背中に電流が走り、
気が付けば俺の頬を熱い物がつたわっていた
俺は、泣いて、いた。
渋谷と呼ばれる街のそれ程大きくもないホールで
久しぶりの彼のライヴを聞いて
だけど頭の中を占めているのはいつも後悔だ
彼の歌を聞いている時に俺の頭の中を占めるのはいつも後悔なんだ
どうして俺はもっと早く彼に出会わなかったのだろう
どうして俺はもっと若い頃に彼に出会えなかったのだろう
どうして俺はもっと素直な頃に
どうして俺はもっと純粋だった頃に
どうして俺はもっと無垢な頃に彼と出会えなかったのだろう
長くはないが決して短くもない二十数年を生きて
すっかりひねてしまった俺の心には
彼の言葉はまっすぐは浸透しない
いつだって凝り固まったいびつなプリズムで分光され
屈折され分解された音と音とのつながりとして響いてしまう
不純物の混じり合った結晶体の俺の心には
彼の時に直線的な言葉はしばしば とんでもない痛みをもたらす
俺は彼の行き方に憧れ
彼のように生き 彼のように語ってみたいと思っていた
しかし彼が他の誰でもなく 彼でしかありえないように
俺もどうしようもなく他の誰よりも俺でしかありえず
だから当然の帰結で俺は彼にはなりようがなかった
それに気付いた時俺は絶望し
それを認められるようになった時俺の中で何かが変わった
そして俺は歌を形にしはじめた
俺は彼にはなれないかもしれないが 俺になる事はできる
俺の言葉で 俺の声で 俺の音楽で 俺の歌で 語る事はできる
俺として生きる事はできる
俺は俺を語る
俺は俺を歌う
俺は俺を露にし 俺を表現する
俺は俺の声で
俺の俺で
誰よりも俺らしい
俺でしかない俺を歌う
俺は彼のようにまっすぐな言葉で歌うことはできないから
時に君には俺の言う事がわからないかもしれない
だけど俺にはこんなやり方しかないから
こうして君に向けて語りかけている
君がどんな顔をしているのか
君がどこにいるのか
君がどんな声をしているのか
君の名前が何なのか
君の年齢がいくつなのか
君がどこの生まれなのか
君が何を好きなのか
君が何を嫌いなのか
君が何を考えているのか
君が何を感じているのか
君が何をしているのか
君が幸せなのか
君の命が輝いているのか
君のそばに誰かいるのか
君が男なのか女なのか
そういった事の全てを俺は知らないし
たぶんこれからも知る機会は少なくて
ひょっとしたらのたれ死ぬまで 俺は、このまま、一生、永遠に、
君に会う事なんてないのかもしれないけれど
そんな君の為に俺は歌う
そんな君に向けて俺は歌う
広くてそしてちっぽけなこの地球のはじっこから
近くてそして遠い君に向けて
彼のように俺の歌も 君の心に何かを伝えられんことを祈り
メッセージを送る
「キミハ ゲンキ デスカ」
リアリティのある愛情
明滅する信号機があなたを人ごみに飲み込ませた
目の前の交差点でついさっき酷い事故があったばかりだとラジオが囁く
渋滞のせいにして何気なく振る舞っていた視線は宙を彷徨ったまんま
いつもと同じ朝焼けがいつもと同じ街をいつもと同じように照らす中で
この一角だけがまるで時間的空間的に隔離されている
そういえばいつもそうだった
遅れてしまう事を極度に恐れていたから
（だってそうでないと皆にシカトされてしまうんだ）
何だってやったし最大限に努力はしてきた
愛される為ならどんな道化にだってなれたさ
「セックスする」という意味の「愛される」じゃなくて
誰かに認めてほしかったのか
いや違う
誰かに自分の存在を許してほしかったのだ
だが悲しい事にそういった努力の全てはむしろ
逆に己と他人との差異を際立たせる事に終始してしまっていたのが俺達だった
切なくなる程のジレンマを抱えて毎晩ブラウン管の風景を眺める
毎日息もできない程の人ごみをうろつき
路端にこぼれているはずの愛情を求め
疲れた時は誰も待っていないアパートに戻って
ただひたむきに眠った
夢も見ない深い睡眠
目覚ましに使ったロックの音は耳に歪んで響いて
毎朝うつろな自分の存在を否応無く認識させてくれる
できる事といえばただ表面的に他人と群れるだけで
互いのペルソナとペルソナを眺めあって乾いた笑いを交しあった
忘れられてしまうのが嫌だから自分から付き合いを絶つのがクセで
そんな時は「どうして俺はこうなんだろう」と
失ったモノが一つ一つ思い浮かんではまた消えていった
だけど俺はもっとリアリティのあるモノが欲しいんだ
リアリティのある風景 リアリティのある空気 リアリティのある会話 リアリティのある行動
リアリティのある リアリティのある リアリティのある愛情
リアリティのある愛情が欲しいんだ
明滅する信号の向こう側に消えたあなたとの間には遂に為し得なかったもの
リアリティのある愛情が欲しいんだ
欲しいものはいつだってそれだけ
リアリティのある愛情が欲しいんだ
1＋1＝1
閉じた窓を開ければやけに眩しい月明かり
眠れない細切れの夢を食べて夜明けを待った
息の詰まる毎日 バーゲンのワゴン ラッシュアワー 袋詰めの日々
手癖の悪いリーダーと頭の悪いリーダーと 君ならさて どっちを選ぶ？
寝言のような解説 観賞用の大統領 よれよれのシャツ うろつく子供達
ありきたりの理由と当たり障らない原因 出口ならダイスで決めよう
1＋1＝1
投げやりな意思表示 鬼畜なすストリート・キッズ あざとさとわざとらしさで銭稼ぐ報道
今日もまた誰かが電車に飛び込んで中央線は動かない
コクが無くてもキレやすい彼や彼女は不快を押さえる術を知らず
口ばかり達者で切り捨て上手に世を渡るアジテーター
クラブ活動の帰り道 夜道に咲いていたイヌノフグリ
薄闇の土手にのびるのは一人ぼっちの影法師
でもそれを表現する言葉を私達は知らない
1＋1＝1
中枢神経が酩酊したから呂律の回らない現実で仮初めのパーティーを開いた
表面的に纏っていた学歴という名の鎧は不景気の雨で決壊を迎えられるのか
ろくでもない頭痛とヤクザな神経痛とでこの愉快な都市をデコレートしよう
パウダースノーみたいな砂糖で飾り立てれば少しは見られたモノになるからね
破壊衝動に駆られるのはもう少し楽しんでからでも十分遅くはないだろう？
1＋1＝1
ああ 何て自由だ 頭が重すぎて息継ぎもできねえ
カタクれたキマリをぶち壊しても こんな事になるなんて聞いてねえぞ
これじゃ約束が違うぜ
頭上の宇宙が広すぎて
窒息しちまう 窒息しちまう 窒息しちまう 窒息しちまう
1＋1＝1 1＋1＝1 1＋1＝1
1＋1は必ず1
後進的な肉体と発展途上の精神
僕等は後進的な肉体と発展途上の精神を抱えて生きる悲しき存在だ
何年か振りの大雪が東京を直撃した夜に君の上でただ果てていた
世間は相変わらず暗いニュースばかりで道行く人も誰も無言劇の舞台の上で
時折り頑張っている車のチェーンの音だけがシャリシャリと響いていた
いつでも僕等は本当の事は何一つ知らされていないけれども
僕等の方だって本当の自分を見せていないんだからそれはおあいこさ
何故なら僕は君の本当の気持ちが分からないし
君が僕の指や僕のキスで さも感じているような声を出していたとしても
その瞬間にも心の中では冷め切った視線で
原始的に本能的に往復運動を続ける僕の腰をせせら笑っているかどうかも知らない
ただ大雪の所為で身動きが取れないから仕方なくというのでもなかろうが
ホテルにしけこんで気の入らないような汗を流すのか
後進的な肉体は反射的に精を放出してけだるさに沈むけれども
発展途上の精神はやり場の無いまま只動物じみた衝動だけを繰り返す
打ち解けた感じで行為に及んでいたとしたって
本当はみんな臆病なままで自分を大切に人見知りしているから
それが決して間違っているやり方だと言うわけではないが
だからといって絶対的に正しいとは
例え神がこの場に現れたって言いはしないだろう
僕等の即物的な声はこのせまい部屋に充満して
嘘のように静まりかえった都会の夜に溶けこんでいった
知らない同士が知り合ってしけこんで抱き合って
ただサイフの重さを測りあうような目を交わして
大雪に閉ざされて逃げ出す事もままならない肉体と精神が途方にくれて
つかの間の温もりはやがて朝日と共に冷めていって
大雪は溶ける事なく残り続けているけれども君とはもうお別れだ
そして
僕等は未だに後進的な肉体と発展途上の精神を抱えて生きる悲しい存在だ
僕等の情熱
或る朝目覚めたら世界が真ッ二つに分かれていた
見れない さわれない 感じられない壁がそこにできていた
或る朝目覚めたら氷河が君の部屋を閉ざしていた
もう何もない 届かない 夢でもみているのか オカシクなったのか
或る朝目覚めたら僕の死体がそこに転がっていた
上からも 下からも 横から見ても 知りすぎている顔
或る朝目覚めたら君の死体がそこに横たわっていた
動きやしない 喋れもしない だけど未だに 美しいままで
「すかして」抜け出した透明な心臓 浮き彫りにされたら困る
「手を止めて」その先は神様だって知らない秘密の隠しイベント
「聞きたい」ありのまま あけすけにできずにいるあらゆること調べたい
「言わせたい」僕の感想 どうか素気なくなんてしないで いつも
不思議
僕等の熱情
僕等の劣情
僕等の感情
リミット
街中に溢れ出している言葉から たった一つ僕が理解できたのは
「大好き」だとかでなく 「大嫌い」ですらなく
只の曖昧でぼやけている科白
聞き返すも聞き流すも ほら 御心のまま
気付かなきゃ 気付けよ もうそろそろここが限界だ
そう 僕達はとばくちだ
崖っぷちで踊るのも それほど悪くは無かったが……
情報と妄想が絡み合ったWebで僕達はお互いを未だ知らないまま
冗長な僕と饒舌な君がほんのわずかなすれ違い劇を演じる
引き返すのも引きずり出すのも君の手の中で揺らされて揺れている
さあ非常口はどちらだ
暗闇でわめいているのも まんざらのもんでも無かったが……
探り合うのも愛し合うのもそれぞれの言葉で
いなされて ほだされる
ああ、とうとう僕は限界だ
君もとっくに終わってんだ
それ以上の事なぞ求めてはいなかった
明日無き今日を抜けて どこへと行くのがいいのだろう……
